小咄いろいろ。



図書館にて In A Library

三人の修行僧が図書館で出会った。

一人目が言った:「私はこの図書館に収められている、神秘道に関する書物の全てを読破するつもりだ。それから、それら書物の意図するところを考え、またそれらが私にどのように馴染むか試してみようと思う」

二人目が言った:「私は書物を全て自分の手で書写しようと考えている、その方が教えを良く吸収できるだろうから。その上で、それらの重要性を内側からも外側からもよくよく吟味するのだ」

三人目が言った:「読んだり書いたりするだけで、知識が身に付くはずがない。私は稼ごう、全ての書物を買い占められるほどに。読むのはそれからだ。その上であなた方二人に質問をしよう、あなた方二人の言葉にも行為にも、知識の片鱗すら伺えぬことを証明するために」

「ならば私は」、通りすがりの四人目の修行僧が、三人のやり取りを耳にして立ち止まりこう言った。

「三人目の修行僧をじっくりと観察することにしよう。『うぬぼれ』という名のやっかいな病が、書物と、書物という名の商品に何を期待するのかを見極めるために」



2007.11.

※巡礼から戻ったばかりのファリードゥッディーン・アッタール(1142-1220)が、乞われて説教を行った際に語ったとされる。

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タムルの物語 The Story of Tamur

タムルはモンゴルの草原に住むとある部族に生まれた。十六歳の頃には、「恐れ知らずのタムル」と呼ばれるようになっていた。どこまでも続く草原を、縦横無尽に馬を駆って進み、自由自在に剣を操る勇猛な戦士としてその名を知らしめた。

二十歳の頃には、父親に付き従って戦いに明け暮れ多くの敵を殺した。戦いにおける大胆さ、刺すような視線、予測のつかない素早い動き、中でもとりわけ、状況をとっさに判断する彼の鋭い知性を、誰しもが賞讃した。人々は好んで彼を取り囲みその後を追った。タムルは、モンゴルに栄光をもたらすために神に使わされたのだ、という噂が広まっていった。誰もがタムルを愛したが、部族の長はタムルを恐れ、彼を殺すことに決めた。

そしてとうとうその日の真夜中、部族の長と側近達はタムル暗殺を実行に移した。穏やかな夜空に、満月が懸かっていた。

広々とした平原にある丘の上に建てられたタムルのテントに、刺客達はそれぞれ四方から近づいた。厩舎を通り過ぎ、食べ尽くした鍋や皿が積み重ねられたままの炊事場を通り過ぎてタムルの寝間に近づいた。

タムルはその夜、気配を感じて目覚めた。そしていくつもの影が動いているのを見て起き上がり、父の寝間へと向かったが、父は血の海に横たわりすでに事切れていた。それを見たタムルの心にも、たちまち血の海があふれた。タムルは短剣を口にくわえてかがみ、そのままの姿勢で厩舎へと素早く走った。

「タムルを殺したか?」影のうち一人が、その他の影に向かって尋ねるのが聞こえた。外を伺うと、剣をぶらさげた刺客の一団が厩舎の方へ向かって来るのが見える。厩舎の一隅には、馬を養うための麦を入れた大袋が積み重ねられていた。タムルは反射的に大袋のひとつに潜り込んだ。刺客達が厩舎に入り込んで来た。

刺客達はタムルを探しまわった。タムルは大袋の中で動かずに息をひそめていた。刺客のうち誰かが、タムルの馬が厩舎から走り去っていった、と叫んだ。夜明けはもうそこまで来ている。部族の長は、大袋のひとつひとつを剣で差し貫くよう刺客達に命じた。タムルは動かず、ひたすら息をひそめた。やがて剣が大袋に差し込まれ、タムルのひざとふくらはぎを貫いた。タムルは衣服越しにそっと剣をつかみ、彼の血を静かに拭い去った。剣はそのまま大袋から抜き取られていった。再び静寂が訪れた頃、タムルは足をひきずりながら大袋から這い出した。

それ以来、彼は「片足のタムル」と呼ばれるようになった。

翌朝、部族の長が発した「タムル暗殺令」はあっと言う間に平原中に広まった。自分が殺されることを恐れた兵士達は、こぞってタムルの首を部族の長に捧げることを誓った。

タムルは数少ない仲間達と共に、平原を去ってアフガニスタンへ逃れた。アフガニスタンからハイバル峡谷を越えてインドへ渡ろうと試み、盗賊に襲われ仲間達を失った。彼はさびれて無人のキャラバン宿に逃げ込み、屋根も朽ち果てた宿の壁際に座り込んだ。

タムルが壁に眼をやると、そこには麦の粒を背負って伝い歩く一匹の蟻がいた。壁を半分ほど登ったところで、蟻は地面に落ちた。蟻は再び壁を登り始めた。ようやく壁のてっぺんまで届くかというところで、蟻はまた地面へと落ちてしまうのだった。タムルは腰を落ち着けて、蟻を見守ることにした。蟻は何度も何度も壁から転げ落ち、タムルはそれを数えた。九十九回目に、ようやくてっぺんに辿り着きそうだったのが、再び蟻はタムルの足元まで転げ落ちてきた。だが百回目に、蟻はとうとう壁のてっぺんにうまく辿り着いたのだった。タムルは驚き、そして自分にこう言った。「私は戦いの一つに負けた。そして、戦いはまだ九十九も残されているのだ」

タムルはモンゴルに還り、新しく自分の一族を興した。そして「片足のタムル」は、「片足の覇者タムル」と呼ばれるようになったのだった。



2007.11.

※作者不詳の、口頭伝承。

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