小咄いろいろ。-02



玉ねぎ泥棒 Onion Theif

はるか遠くの土地に、レザという名の男がいた。ある晩、レザはたまねぎをいくらか盗んで地元の市場で売りさばき、ちょっとした金を稼いでやろうと決めた。暑過ぎず寒過ぎず、ちょうど心地よいぐらいの夏の夜のことだった。月のおかげで、夜だというのに視界ははっきりと鮮やかだった。レザは大きなかごをひとつどこかから拾ってきて、隣り村の農家まで馬にまたがって駆け込んだ。

農家につくと、レザは周囲に誰もいないことを確認し、それからたまねぎをひとつひとつ選別し始めた。良いたまねぎだけ選んでかごに入れてゆき、とうとう100個集めた頃にはかごもすっかりいっぱいになった。そこでレザは再び馬に乗り家に帰ることに決めた。レザが重たいかごを馬に載せると、馬は驚いて大きくいなないた。

家の中で寝ていた農夫の妻は馬の声を聞いて眼を覚ました。そして起き上がり、音の正体を見てやろうと窓の外を見た。農夫の妻は馬とレザを見て、急いで夫と息子たちを起こした。泥棒が馬に乗って逃げ出す前には、農夫のマフムード一家全員が外に出ていた。こうしてレザはあっけなく捕えられた。

朝が来るとすぐに、マフムード一家はレザを村長のところへ連れて行き、たまねぎを100個盗んだ泥棒を裁いてくれるよう訴えた。村長はレザに三つの選択肢を与えたー100枚の金貨を支払うか、100回の鞭打ちか、あるいは彼が盗んだ100個のたまねぎを食べるか、このうちどれかを罰としてレザに選ばせた。

レザは即座に100個のたまねぎを食べることに決めた。食べ始めると、レザの眼からは涙がぼろぼろこぼれた。レザはすっかりみじめな気持ちになってきた。25個めのたまねぎをようやく飲み下したとき、まだ75個も残っていることにレザは愕然とした。そこで100回の鞭打ちに替えてくれるよう村長に願い出た。村長は同意し、レザは鞭打ちの痛みを覚悟した。鞭打ちが10回を数えたとき、この拷問に耐えられなくなったレザはやめてくれるように懇願した。結局、レザは100枚の金貨を支払うことにした。そこで村長は彼を釈放し、レザは自由の身となった。

最初から100枚の金貨を支払っていたら?たまねぎを食べさせられたり、鞭で打たれたりすることもなかっただろう。だがレザは『遠回りの道』を選んでしまった。ある点からもうひとつの点へと移動する際に、二つの点を結ぶ最短距離の直線というものが存在する。だがジグザグや三角や円、その他の多角形を好むとなると、・・・目的地に到着するのはより困難になってしまう。



2004.**.

※パンジャビ地方の昔話。

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お茶の物語 History of Tea

古い時代、お茶というものは中国でしか飲まれておらず、他では全く未知のものであった。だがそうしたものが存在するという噂は、時が経つにつれ諸外国にも広まり始めた。賢い者も愚かな者も、それぞれにそれが彼らが望むものであるか、あるいは彼らが想像した通りのものであるか、はたまた想像した通りのものに違いないという思い込みから、それについて知ろうと動き始めた。

インジャの国の王は中国に使者を送り込んだ。彼らは中国の皇帝からお茶を振る舞われたが、中国の農夫たちもそれを飲んでいるのを見た。そのためこれは自分たちの王にはふさわしくないと判断した。さらにまた、中国の皇帝が本当にお茶なるものを自分たちに振る舞ったのかどうかも怪しい、実は何か別のものを飲まされているのではないかとさえ疑った。

アンジャの国の最も偉大な学者は、お茶についておよそ可能な限りの情報を集めて研究した。そしてそれが植物であり、液体であり、色は緑、赤、黒、そして時には苦くまた時には甘いと言われることから、それが非常に珍しいものであると結論した。

マズハブの国の人々は、彼らの宗教的戒律を遵守する。それでお茶は小さな袋に詰められて、彼らの宗教儀式の先頭を飾るものとなり、人々はうやうやしく運ばれるお茶の袋の後に付き従って行列を作り通りを練り歩いた。誰ひとりとしてそれを味見しようなどとは思わず、またその方法など知りもしなかった。全員が、お茶には不思議な力が宿っていると信じていたのである。それを見た賢者が「それは熱湯を注いで飲むものだ、無知の人々よ!」と言ったことがある。彼はたちまち殺されてしまった。人々にとってお茶に熱湯を注ぐということは、すなわちお茶の殺害を意味し、それは宗教的に受入れがたい冒涜であった。賢者は彼らの宗教を害する者として処刑されたのだった。

賢者は死の前に、ごく少数の弟子たちにお茶の秘密を明かした。残された弟子たちは苦心の末にやっとお茶を手に入れ、ひそかにそれを飲むようになった。誰かにたずねられた時には、「これは師直伝の秘密の薬です。ある種の病気に効果があるものです」と言ってごまかした。

そういうわけで世界中において、お茶はそれがそうとも知らない人々の手によって栽培されたり、また飲むものとも知らない人々の手によって運ばれたり売られたり、あるいは人類共通の飲み物であると思われていた。また誰かによって独占されたり、あるいは崇拝されたりもしていた。中国の国外で、実際にお茶を口にした者というのはほんのわずかであった。

そこへ知識ある者の登場である。彼はお茶を扱う商人、それを買って飲む者、あるいはそうでない者など、全てに向かってこう言った。「味わう者はこれについて知っている。味わったことのない者はこれについて無知である。天より与えられたこの飲み物についての無駄話はもう結構。つべこべ言わずにお茶を振る舞え。好む者は二杯めを所望するであろう。好まぬ者は立ち去るであろう。議論と神秘の茶店を閉め、経験の茶店を開くのだ!」

お茶はシルクロードを通ってこの町からあの町へと運ばれるようになった。そして翡翠や宝石細工、絹などを運ぶ商人たちが旅の中休みをするときはいつでも、お茶についての憶測とは無関係に、たまたま手近にあったという理由からさまざまな人々にも振る舞われるようになった。これが北京からブハラ、果てはサマルカンド、はるばる遠くにまで確立された茶店というものの始まりであった。そして味わった者こそが、お茶について知ることとなった。

最初に茶店を訪れた客は、「天の飲み物」を探求しているという知識人を自称する類いの人々だった。彼らはお茶が振る舞われている間にも、「なんだ、この枯れ葉は」とか「私が欲しているのは天の飲み物だぞ?水を沸騰させてどうするというのだ」とか「これが何であるか、どうして私に知ることが出来よう?これが天の飲み物であるという確かな証拠は?金色だと思っていたがこれは銅の色ではないか」などといちいち叫んだ。

そうこうしているうちに時は過ぎ、お茶に関する真実が知れ渡るようになった。ついにお茶がそれを味わう者全ての手元に行き渡るようになった頃には、役割は逆転していた。つまり、それについて最初に知的であるかのように振る舞った者は愚者と断定されたのである。そしてそれは今日まで真実とされている。



2007.08.

※トルキスタンのハマダーニーが語った物語。1140年没。

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王様の指輪 King's ring

昔ペルシャのある王様が、非常に稀少な宝石をはめ込んだ指輪を持っていました。ある日のこと、王様はお気に入りの廷臣たちと連れ立ってシーラーズへと出かけました。シーラーズに到着すると、王様はモスクの尖塔の一番上に、あの指輪を置くように命じました。そして「あの指輪の中心に矢を射通すことが出来た者に、指輪を与えよう」と言いました。

400人を超える弓の達人たちが列を作って並び、指輪に狙いを定めて次々に弓を引き絞り矢を放ちましたが、誰ひとりとして成功する者はいませんでした。

たまたま、モスクの隣りの建物の屋根の上で、ひとり弓矢の練習をする少年がおりました。何かのはずみで放った少年の矢は、何かのはずみで吹いたそよ風に乗り、みごとに指輪の中心を射通しました。

王様は少年を誉め称え、約束通り指輪を少年に与えました。廷臣たちも、それぞれ少年に手に余るほどの贈り物を与えました。

贈り物を受け取った後で、少年は自分の弓と矢を火にくべて燃やしました。それを見た王様は不思議に思い、なぜそうしたのかを少年に尋ねました。少年は答えてこう言いました。

「私の初めての名誉と栄光を、不変のものとするためです」



2007.08.

※サアディーが語った物語。

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おしゃべりなきこり The Talkative Woodcutter

はるか遠くの地にとあるきこりの男が住んでいた。村から離れたところにある大きな森で、きこりは毎日木を切り倒していた。一日の終わりには切った木を背負い、村へ持って帰ってそれを売るのだった。

そうやって木を切る生活を20年も続けると、きこりもさすがに疲れてきた。ある日彼は森の中で、全ての木に向かって大声で叫んだ。

「もう飽きたぞ!こんなこと、これ以上やっていられるか!これから最後の薪を切る、そして荷造りを済ませたら、わしら人類のご先祖様であるアダムを探しに行くのだ。わしらの苦労と困難の原因を作った張本人の骨を探して、そいつを薪がわりに燃やし尽くしてやる」

神はそれを聞くやいなや、女性の姿を借りた天使をきこりの許へ行かせた。天使はきこりに何をしているのか、と尋ねた。「アダムの骨を探している」きこりは答えた。「苦労と困難の原因を作った張本人の骨を探して、燃やし尽くしてやりたいのだ」

「もしも誰かが、あなたを苦労と困難から解放するとしたら?」天使が尋ねた。「1000回でも感謝するとも!」きこりは嬉しそうに答えた。「それではあなたを楽園の庭へご案内しましょう。あなたは二度とつらい仕事をしないでもよろしい。ただし、一つだけ約束して下さい。そこではあなたは何を目にしようとも、一言も口をきいてはいけません」

きこりはそれに同意した。そこで天使は一度だけ手を叩いた。まばゆい光が二人を包み込んだ次の瞬間、きこりは高い木々と、清らかな小川の流れと、おいしそうな果物がたわわに実る美しい庭にいた。

しばらくして、きこりは一人の男が黙々と木を切っているのを目にした。男は、枯れた枝は幹に残して、育ち盛りの若い枝ばかりを切り落としていた。きこりは天使との約束について考えはしたものの、その男の仕事ぶりを見ているうちに、ついに言わずにはいられなくなった。「だんな、枯れ枝を切り落として若枝はそのままにしておいた方が良くはないですかね?」

その男は動きを止めた。そしてこう言った。「ここの住人かね?」

次の瞬間、きこりは彼の斧を手に自分の村の近くに帰されていた。きこりはわあわあ泣きわめき、身もだえて自分の胸を打ち始めた。再び天使が彼の許に訪れ、何があったのかと尋ねた。きこりが一部始終を語ると、天使は言った。「私はあなたに、一言も口をきいてはいけない、話をしてはいけないと言いませんでしたか?」

「約束します、あそこに連れ帰ってくれたら二度と口はききません」きこりは言った。そこで天使は手を叩いた。きこりは再び楽園の庭にいた。

それから少しして、きこりは庭を軽やかに走り回るガゼルと、足を引きずりながらその後ろを追いかける老人を見た。きこりは考えもなしに大声で言った。「じいさん、ガゼルならあっちの方で跳ね回っているぞ。そんな足では追いつくわけがないだろう」

老人は動きを止めた。そしてこう言った。「ここの住人かね?」

次の瞬間、きこりは背に薪を目いっぱい背負わされて村外れのしげみの中に放り出されていた。きこりはまたしても泣きわめき、うめき声をあげた。もう一度、天使がやって来た。「お慈悲を」と、きこりは言った。「もう一度だけでいいんです。今度連れて行ってくれたら絶対に口をきいたりしません。もしも約束を破ったら、好きなだけ罵ってくれて構いませんから、もう一度だけお慈悲を」天使は同意し、手を叩いた。きこりは瞬く間に楽園の庭に戻っていた。

自分の過ちに気付いたきこりは、それから三日間はじっと黙って過ごした。だが次の日、きこりは、男たちが四人がかりで油を絞る巨大な石臼を必死で動かそうとしているところに出くわしてしまった。四人の男が片側から石臼を持ち上げる。すると石臼は反対側にひっくり返ってしまう。それをまた全員で、反対側から持ち上げる。すると石臼は元通りの位置にひっくり返ってしまう。四人の男は汗まみれになって、同じことを繰返しているのだった。話しかけるべきだろうか?きこりは彼自身に問いかけた。どう考えてもこの男たちのしていることは馬鹿げている。きっぱりと言ってやるべきだろう。「あんたがた、石臼を持ち上げたいのなら片側からだけではなく両側から支えなくちゃ」

男のうち一人がきこりの方へ振り返り言った。「ここの住人かね?」次の瞬間、きこりは村から離れたところにあるいつもの大きな森の中にいた。

きこりは泣いて泣いて、泣き叫んだ。再び、天使が彼の前に現れた。きこりはどうにかして楽園の庭へ連れて行ってもらおうとあれやこれやと言い訳をし懇願した。だが天使は言った。

「あなたがたの父アダムは、かつてたった一度だけ過ちを犯した。おまえは過ちの上に過ちを重ね、さらにその上に過ちを重ねた。おまえの居場所はここに決まった。この先の与えられた時間の全てを、ここで薪と共に過ごすのだ」



2007.12.改訳
2007.08.

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