|
※ここは跡地です。大川周明没後50年が経過し、彼の訳したコーランをhtml化して格納しておこうと思ったのですが、2009年12月に「文語訳 古 蘭 (コーラン)」上下巻として復刊されることを知りました。それで巻頭の解説のみを残し、以前アップロードしたファイルは全て削除することにしました。
(2009.12)
解説
一、
大川周明博士の「古蘭訳注」は、古蘭原典の傑出せる日本語典である。この日本語典は、文藻豊かな博士が、雄渾にして格調高い筆致をもって、原典に相応しく、厳粛荘厳に訳出されあtものである。
この日本語典は、ひとり回教信者のみならず、広く古蘭の真髄を理解せんとする日本人にとって、待望すること久しい福音の書である。
一、
博士によれば、『古蘭はアルラーハがマホメットに降せる啓示の集録にして、神意を彼に伝へたるは天使ガブリエルなりとせらる。即ちガブリエルが神意を奉じて随時マホメット之を復誦し、しかる後に之を信者に向って誦出せるものなり。従って古蘭は、ことごとくアルラーハの言にして、語るところのものは、即ちガブリエルなり。」かくの如くに、『古蘭は、もと決して読者のために書かれたるものに非ず。最初より最後まで聴者のために読誦せられたるものなるが故に、文章としては未完成にして、マホメットの身振ないし音声の抑揚によりて文意を補へる個処あり、また内容は無味乾燥なるも、ネルデケの謂ゆるアラビア語の「異常なる自由と力」によって、切実なる印象を聴者に与うるものなるが故に、之を外国語に翻訳してアラビア語の有する音調に伴う魅力を彷彿せしむるが如きは、殆ど不可能に属すというべし。例へば、メヂナ諸章の如き、マホメットが現実の政治的支配者たり且つ立法者たる間に接受せる啓示なるが故に、諸節の多くは之を外国語に翻訳すれば、甚だ平板無味なる法律ないし規則の制定にすぎざるも、アラビア語によってマホメットが之を朗読せる時は、強く聴者の耳に響き、深くその胸に徹せるが如し。』
一、
右に述べられているように、元来アラビア語原典の訳出は極めて難解である。その故に博士は、これが理解を深かめるために、訳出にあたって特に各章節に「註」を附けて、蘊蓄深い解説を誌しておられる。この「大川註」は、広く漢・英・仏・独語による訳書十数種について比較研討された博士多年の研究成果を示すものであって、古蘭研究者にとって貴重なる指針となるものである。
かくて、この厖大なる「古蘭訳註」は、大川博士が心血を注いで完成された畢生の回教研究書であり、回教研究史の上に打ち建てられた一大金字塔である。
一、
而して、博士によるこの大業績が、松沢病院の一隅において成しとげられた、まことに奇しき其の経緯を明らかにしておかねばならぬ。
一、
大川博士は、戦犯容疑者として、昭和二十年(一九四五)十二月十二日、巣鴨刑務所に入所された。翌二十一年五月上旬、精神病のために、巣鴨から本所の米軍病院に移され、六月上旬に本郷の東大病院に、更に八月下旬には松沢病院に移された。
博士によれば、『松沢病院に移ると同時に病気は治り始めた。もっとも数ヶ月にわたる長い白昼夢のことであるから、覚めた当座は現実と夢幻との境が判然としなかったが、翌昭和二十二年の初春には、ちょうど二日酔が奇麗に醒めたように、私の精神は全く常態に復った。』そこで『私は、古蘭原典と十種にあまる和・漢・英・仏・独の訳本を自宅から取寄せ、昭和二十一年十二月一日より之を読み初めた。それは私が乱心中の白昼夢でしばしばマホメットと会見し、そのために古蘭に対する興味が強くよみがえったからである。私の病気は私の理解力に何等の影響も及ぼさず、以前に読んで難解であった個所も、此度はその意味が明瞭になったところが多かった。そして翌二十二年二月下旬に一応之を読了した。』
かくて、博士は、『三月十七日、古蘭訳註に筆を執り初め、翌昭和二十三年十二月十一日ついに最後の訂正を終へて完全に訳了』された。
(尚お、博士が不起訴となって釈放され、中津の自宅に帰えられたのは、同二十三年十二月三十日であった)
一、
古蘭の日本語による訳出は、博士の多年にわたる宿願であった。東京帝大宗教科卒業の数年の後、回教研究を志してより三十五年間、幾回となく古蘭を繙き訳出の稿起すこと二回であったが、果たすことを得ず、はからずも松沢病院において、この大業を完成して多年の宿願を成就されたのである。さればこそ博士は、『昭和二十三年十二月十一日最後の訂正を終へて完全に訳了したその夜、直ちに筆を走らせて、その時の深い感激を「古蘭訳註」と題して、次のように書き留め』ておられる。
(前略)
その後幾度か古蘭を繙きしが
身を入れて訳筆を執るには
余りにも事繁き歳月が続いた
その古蘭の訳註が
戦犯容疑者となり乱心者となりしために
めでたく玆に稿を了へて
多年の宿願成就するとは
嗚呼 見えざる力 常に吾を導く
「安楽の門」
(片岡気介・誌)
index > bookworm > 『古蘭』大川周明
|